2010年06月04日

老い日記[78]――生誕18,646日/禁煙31日目

 
 診察カードを受付機に挿入、PHSを慣れた手つきで受け取り、表示に従って、これまた馴染みとなった「51番」で待つこと約10分。名前が呼ばれて診察室に入る。
 17日ぶりに会う担当Y医師は、なんだか懐かしの戦友のよう。「熊本は大丈夫でした? あちらで病院にかからずにすみました?」「はい、おかげさまで。紹介状、書いていただいてありがとうございました」と挨拶を交わした後、切除した癌細胞組織検査の結果が淡々と告げられる。
 我が早期胃癌、病変18mmの周囲には癌はなし。深さも粘膜層内にとどまっていて粘膜下層まで到達しておらず。リンパ節等への広がりも認められず。つまり完全切除、成る。胃を半分切り取る再手術の必要なし。
 「再発する可能性は95%、いや98%ないと思います」
 Y医師がなぜパーセンテージを言い直したのか、その3%にどれほどの意味があるのか素人にはさっぱりわからないが、とりあえず癌撲滅に勝利したことはわかる。「今後は経過観察ということで、半年後に内視鏡を入れて、CTを撮りましょう」
 やりました。我が体、まだしばらくは生かされし。ここに、3月19日に突如として始まった「古城十忍・癌物語」、無事に閉幕。おめでとう。(拍手喝采)
 と思いきや、Y医師がまたも淡々と言葉を継ぐ。「再発防止のために、ピロリ菌を除菌しておきましょう」「……ピロリ菌、ですか?」「ええ。検査結果でピロリ菌が見つかってますんでね」「はぁ……」「薬を1週間服用していただければ大抵の方は駆除できますから、その上で呼気テストをして、除菌できたかどうかを確認しましょう」
 どうやらピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌などと浅からぬ因縁があるらしく、ここで沸々とブンヤ(新聞記者)魂が頭をもたげる。「どれくらいの数の菌が今いるんですか?」「数はちょっとわかりませんが、呼気テストである程度はわかります」「薬の服用だけで菌はなくせるんですか?」「ええ、大抵の方は。中には菌が残る方もいらっしゃいますけど、その場合はさらに薬を変えて服用してもらいます。それでほぼ、除菌できますよ」「ほぼってことは、それでも残る人がいるってことですね?」「数パーセント程度ですが。あと服用中に副作用の出る方も何割かいらっしゃいます」
 副作用? Y先生、なんだか健康とは程遠い話になってきてませんか?
 「下痢になったり、中には味覚障害が起こって食べ物の味がわからなくなる人もいるんですが、でも服用が終われば副作用も治まりますから、ちょっと我慢して1週間飲み続けてください。途中でやめてしまうと効果がなくなるので」「(これ以上の抵抗は無意味と判断し)……わかりました」「お酒は飲まれますか?」「(何を今さら聞くんだと思いつつ)いえ、今回のことがあってから、ずっと飲んでませんが」「そうですか。この薬の服用中もお酒は飲まないでください。飲むと薬が効かなくなりますから」「(えー、またもお預け?と思いつつ)……わかりました」
 こうして次回、呼気テストの日を予約。薬を服用後、しばらく時間をおかねばならないらしく、予約日は3カ月以上も先。
 癌物語は終わったものの、新たに第2章となる、「古城十忍・ピロリ菌物語」の幕開け。こんな展開、誰が予想する?

 それでも、とりあえず癌とはオサラバしたんだと晴れ晴れとした気分で病院を出て、生まれ変わった気分ついでに散髪に向かう。
 「鬢の白髪も部分染めしてください」、明るく言うと、理容師は残りわずかな我が髪を掻き分けつつ、まじまじと見て、「染めるのはやめといたほうが……」。
 え? これまた予想外の展開に、驚いて鏡越しに理容師を見る。「頭皮がずいぶん荒れて、炎症のようになってるところもありますから、皮膚がもっと傷むと思うんですよ」「いやでも、部分的にちょこちょこってやれば大丈夫じゃないですか?」「いやぁ、どうかなぁ。すいません店長、ちょっといいですか」
 店長までやってきて我が少ない髪を掻き分け頭皮観察。そして、「炎症が治まってからのほうがいいと思いますよ」。
 いやあの、俺ね、今日生まれ変わったんだから。ある意味、記念だから。髪もスッキリさせてさ。心の中で激しく説得にかかるが、店長はきっぱり、「お勧めできません」。
 ……人間、思うように生まれ変われるもんじゃありません。

 稽古終了後、劇団員を何人か誘って軽く飲みに行く。
 だって癌物語、打ち上げだよ? ピロリ菌との闘いが始まったら禁酒が続くんだよ? 今日ぐらい記念にいいんじゃね?
 いくつも理由を並べ立てるこの男、自分に甘い甘い。ほとんど駄々をこねるクソガキ同様なり。しかしながら、ずいぶん久しぶりの生ビール。さすがに美味し。俺って健康。一瞬だけ思う。

51番.jpg
すっかり馴染みの飲み屋に入るような気分で入る「51番」。

 手を洗って.jpg
病院内のトイレの貼り紙。「どういたしまして」
posted by 老い日記 at 23:44| Comment(2) | 日記